とある神経難病利用者との出会い

大森淳


少し前に、ある都道府県での勤務からつながりを持たせていただいた利用者さまとの話です。
あまり、多くのヘルパーを使ってはいませんでした。
理由の一つとして、同性介助がありました。
当然のことだとは思いますが、最近では病院や施設でも同性介助の考え方は進んでいると聞きます。
ただ、在宅のヘルパーとなると、御宅へ通える距離内に適切なヘルパーがいないという現状はなかなか解決しない問題です。

今更ながらに心の底が痛むのは、ご本人は、とてもとても必死に家族の生活を守っているというその姿勢です。
大変なご病気の中、ご主人と愛子に先立たれ、女性難病患者であるご本人が、娘と孫を守っていくという姿勢が御宅を離れると、ひしひしと心に伝わってきます。
なぜ御宅を離れると、なのか。
あまりにも想いが強いのだと思います。
御宅の中では必死です。
ヘルパーに伝えよう。育ってもらおう。家のマナーやしきたり、家族を想う気持ちをヘルパーにも同じように感じて欲しい、家族を壊さないでほしい。
それゆえに、個性の強さとして勘違いされることも多々あったと思います。

さて私は、男性ですが排泄以外のことについて関わらせていただきました。
排泄や更衣などについては、ご家族に頼んでいた状況です。
支援中、たくさんのことをお話ししました。
呼吸器ユーザーの方でしたから、発声はできません。
ご本人が操るPCからの言葉です。
一つ心に残っているのは、私に対してのとある依頼文をB5の用紙に印刷して用意してくださった時のことです。
ちょっとしたお小言も書かれていました。
何気なく読み、なるほど。と頷き、レターを小さくたたみました。
そこで、ご本人から。
「3時間かかった。」
「そんなに早く読まないでよ」
とのこと。
「おぉぉぉぉー」と驚愕。
それもそのはず、今は主流となっている視線入力装置や、単語予測機能などない、50音スキャニングのソフトを使って、1文字1文字の入力でしたから、おそらく平均1文字10秒以上かかっていたはずです。
およそ本当に3時間はかかっただろうなとその時思いました。
同時に、そのお手紙の重さに実感したことは言うまでもありません。
私は十数秒で読んでしまうわけですから。

その他に、口文字もしくはエア文字でのコミュニケーションもこちらで学びました。
ヘルパーが文字盤の配列を読み上げる手法です。
深夜の真っ暗な中で話すとき、またはベッド操作をしている中、文字盤の文字が見えなくとも、文字盤を手で持つ余裕のない時でも、ご本人とコミュニケーションが取れます。
ご本人曰く、
透明文字盤はお互いに文字を見つめて会話するから表情が見えない。」
「口文字は相手の顔をお互いに見ることができるから、心で会話ができるでしょ。」
とのことでした。
同じ1文字1文字を拾っていくというコミュニケーションでも、それほどまでに違うんだなと改めて実感した次第です。
また、相手に求めるもの(私たちに求められるもの)は、結果ではなく、その課程の中にもあるんだねということも。

それからというものの、口文字を読んでいる最中、なんとなく笑える話を想像できる時は、私も遠慮なく笑いながら口文字を読ませてもらいましたし、私への叱責を含む時は自然と斜めに構えて声が低くなるのを実感しながら口文字を読ませていただきました。

私の母よりは少しお若かったはずです。
ですが、左親指と首から上の筋肉だけであの手この手をつかってとても多くのことを伝えてくださいました。PCも酷使し。
ご本人からは、伝えてくださった以上に、多くのことを感じ、学ばせていただき、そして今につながる勇気を頂きました。
また、新たな土地で人助けをしていきます。
妙高にて。

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