第1回 利用者とヘルパーの関係づくりに必要なこと
私は脳性麻痺により生まれつき体が不自由だが、その経験を活かし、講演やワークショップの開催を通して医療や介護を多くの立場の人とともに考え、より良いものにしていこうという活動をする傍ら、ヘルパーを始める人向けの研修講師を担当している。生まれてからずっと地域で暮らしていて、父の病気をきっかけに大学2年の途中からヘルパーによるケアを利用し始め、現在では毎日8時間程度、ヘルパーのケアを受けている。昨夏から土屋訪問介護事業所のヘルパーにもケアに来てもらっており、縁あってコラムを書く機会をいただいた。介護業界との付き合いは15年以上になり、長く付き合ってきた利用者の視点から、感じたことを書いていこうと考えている。拙文で恐縮だが、お付き合いいただければ幸いである。今回はまず、ヘルパーとの関係づくりについて感じていることを書いていこうと思う。
私にとってヘルパーとはどんな存在なのかと改めて考えてみると、一言で表現するのは案外難しいことに気づく。日常を共につくりあげる大切な存在と言えるが、家族でもないし友人でもない。少々突き放した言い方に聞こえるかもしれないが、仕事として依頼しているからこそ気兼ねなく色々なことをお願いできるし、細かい要望も伝えやすい。私は家族や友人に頼んで世話をしてもらう方が気を遣ってしまう。また、制度の中でケアが行われていることも意識できるため、ヘルパーに甘えたり過度な要求をしたりしないよう自身を律することにもつながる。身内ではないが赤の他人でもない第三者という捉え方が、私にとっては程よいのだ。そして、私がヘルパーとの関係を作っていくときに意識し、同時にヘルパーにも望むことは、互いに相手に興味を持って接すること、それだけである。そのために、ヘルパーには色々な話題を投げかけることを心がけている。その中で相手の興味のあることや得意なこと、苦手なことなどことを知っていくのが自然で手っ取り早い。
しかし、こんなヘルパーがいたことがある。私が声をかけて何かを頼んだとき以外はほぼずっと携帯電話でゲームをしているのだ。たしかに頼んだことはそつなくやってくれるし、遅刻するなどの問題もない。だが、頼まれたことはきちんと時間内にやっているからいいだろうという態度にどうしても見えてしまった。会話が弾まないだけでなく、私への興味が感じられず、ともにケアをつくっていくことは難しいと判断し、最終的には事業所と相談してお断りさせていただいた。
一方、現在最古参のヘルパーは8年以上続けてくれていて、彼とは一緒に色々な活動に参加してきた。互いが大切にしていることも嫌なこともわかっていて、とても信頼できるヘルパーの1人だ。私は脳性麻痺の影響で精神的な緊張が筋緊張に直結し、日によって筋緊張の強さが違う。しかし彼は私に触れずとも一目で私の状態を見抜くのだ。もちろん彼とて、初めからそんなことができたわけではない。ケアを通して少しずつ互いを知っていった結果、今の私と彼の関係が作られたのだ。ただ、すごく頑張って互いを理解しようと努力した覚えはない。趣味、仕事、プライベートなど、ごく普通のやりとりをしてきただけのように思う。
また、多くのヘルパーにケアを受けてきた経験から、私のケアに関してヘルパーが覚えづらいところは把握している。そこで、電子レンジの操作方法と温め時間や、薬の種類としまってある場所、廊下の電気のスイッチの場所など、口頭での説明が難しいことは、貼り紙やカラフルなシールなどの目印をつけることで補っている。生活感が増して見た目は良いとは言えないが、スムーズなケアにつながるのならそれでいい。さらに、ケアの手順を整理、簡略化できることは見直し、道具や補装具の購入も提案があれば柔軟に検討する。ヘルパーがケアを行いやすい環境を整えるのも、私の務めだと思っているからだ。このように、ケアというものはヘルパーと利用者双方の努力と工夫によって、より良いものになる。そして、ケアをともに考える過程でもヘルパーと利用者の関係はつくられ、結びつきは強くなっていく。そうなれば、さらによりよいものにしようという機運が生まれるし、利用者の心身の状態が変わった際にも協力して対応しやすくなり、関係はさらに深まる。このような良い循環が起これば、もう心配は要らないだろう。
そんな難しいことができるのだろうかと不安に思う方もいるかもしれない。実際にヘルパーになる方向けの研修講師をしていて、「利用者さんとの関係づくりに必要なことは何ですか?」とよく聞かれる。この点を不安に思う人が多い証左といえるだろう。しかし、ヘルパーと利用者がよい関係をつくるために、特別なことは必要ないのだ。両者にとって最も大切なことは、目の前の相手に興味を持って接することだと私は思う。そして、医療職と患者でも職場の同僚同士でも友人同士でも、人と人が関係をつくるために大切なことは、きっと同じはずだ。
かく言う私も、関係がうまく作れないままヘルパーが去っていったことはあったし、今後も試行錯誤を続けていくのだろうと思っている。それでも、この点についてはあまり心配していない。
「目の前の相手に興味を持って接すること」
迷ったときは、この原点に立ち戻ればいい。利用者もヘルパーも、人なのだから。
加藤拓(かとう たく)
1983年生まれ。生まれつき脳性麻痺による身体障害者で、現在は毎日ヘルパーのケアを受けながら、「皆で考えてつくる医療と介護」をモットーに、講演活動やワークショップの開催を続けている。2020年7月からはヘルパー向けの研修講師も担当している。
趣味はゲームと鉄道に乗ること。