『北風と太陽』

上杉秀貴



組織で働く中で様々なリーダーと一緒に仕事をすることもありましたし、恐れ多くも自分がリーダーになることもありました。その経験の中で自分の中にあるべき姿というか、こうありたいなと思うリーダー像のようなものが構築されてきました。(もちろんまだまだ勉強中で失敗もたくさんありますが)

北風と太陽というイソップ童話があります。北風と太陽が旅人の上着を脱がせる力比べをする話ですが北風は上着を吹き飛ばそうと力いっぱい吹き付けるのに対して太陽は燦燦と照り付けることで旅人は自ら上着を脱ぐというものです。童話は太陽の勝利により“過度なプレッシャーや威圧的な環境を与えるよりも自発性を促したほうが良い“という教えですが、リーダーとしてどのようにメンバーと接し、どういう職場環境を提供できるかという点で大変参考になります。

働く環境はリーダーによって大きく変わってきます。やらないと怒られるからとか上司が言うので仕方なく・・という外発的な動機ではなく、本質を理解してもらい自ら考え行動できる内発的な動機で仕事ができるチームでありたいと思います。

では人はどうすれば内発的な動機で動いてくれるのでしょうか?自分なりに失敗を重ねながらも大切にしてきたことがあります。

以前の職場の教育プログラムで、成果や行動に対して自分の評価を伝えることをフィードバックといい、行動を強化するフィードバック(行動に対してOKをだすこと)と行動を是正するフィードバック(行動を変えてもらうこと)の2種類があることを学びました。
フィードバックをするときに無意識的に是正することが多くなります。あれはダメ。それはちがう。といったように相手により良くしてもらおうと感じたことを伝えた結果、当たり前ですが是正となります。相手をよく観察すればするほど是正が増えたりします。
では逆に、行動を強化するいわゆる“ほめる”といったシーンは是正の場面に比べ圧倒的に少ないように感じます。なぜでしょう。行動や結果が○(まる)であったとしても、わざわざほめなくても・・ほめるとか照れくさいし・・言わなくてもわかるだろう・・謙遜を美徳とする日本の文化でしょうか(笑)。何も伝えない無言のメッセージをもってして、受け手は、“○なんだろうな、注意されなかったから問題なかったということだろう”となります。特に問題がないときには“問題なし”と思うだけで何もコミュニケーションが発生しなかったりします。
よいリーダーは問題がないときも、きちんと“問題なくできているよ”と伝えます。○であっても二重丸なのか、ふつうの○なのか、できて当然の〇なのか。行動強化のフィードバックを自由自在に扱えます。行動強化が生み出すエネルギーは仕事にやりがいを感じてもらったり、楽しかったり、成長を感じられたりする内発的な動機に直結し組織全体の士気を高め良い成果につながります。“太陽”のアプローチをするには行動強化が非常に重要と感じ、こだわってきました。

働く喜びは、金銭や昇進、福利厚生などといったモノによる報酬だけでなく“心の報酬”が必要です。チームへの帰属意識を高め、モノ以外の働く理由付けが必要です。“ほめる”となると少しオーバーな印象になりがちですが、ねぎらいの言葉をかけたり、名前を呼んで目を見てあいさつするだけでもいいいかもしれませんし、身近にある小さなことも心の報酬としてきちんと伝えること。当たり前と思った瞬間に行動強化のエネルギーを注入する機会をひとつ失います。心の報酬はリーダーが与えるもの。それを忘れずにしっかりと体現できるリーダーでありたいと思います。

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