重度訪問介護の問題点(1)

岩澤正博



1.はじめに

 私はこの会社へ入社して約2年ほどになります。アルバイトのヘルパーから重度訪問介護の支援を経験し、現在は常勤スタッフとして千葉県を担当しています。最近では、ヘルパーとして支援に入っていた当時からすると考えられないほど、障害者支援に関わる多くの人たちのお話しを聞かせていただく機会も増えました。

 そんな中で私が感じているのは、重度訪問介護サービスを利用している利用者様の中には、満足のいく支援を受けられていない方も数多く見受けられるということです。例えば、常時介助が必要な重度障害者の就労中支援、18未満の障害児への支援、遷延性意識障害などについては、制度上利用が認められていないか、認められてる場合でも重度訪問介護の申請そのものが困難な状況であり、なかなか利用が進んでいないのが実情です。

 今回は、その中でも重度訪問介護の18歳未満障害児に関する利用傾向をみながら、そこから浮かび上がる問題点について考えていきたいと思います。

2.重度訪問介護制度と障害児

 現在、厚生労働省のホームページから確認できる障害福祉サービスの概要には、重度訪問介護の利用は原則18歳以上であることが明記されています。しかし、この規定には例外があり、厚生労働省に確認すると次のような答えが返ってきました。

 「15歳以上で重度訪問介護が必要な人は、児童相談所が適当と認め、市町村に通知した場合に利用できる。その場合、支給決定までの流れは18歳以上の人と同様である」

 つまり、この規定によると15歳以上18歳未満の障害児でも、例外的に重度訪問介護を利用することができ、その場合の支給決定までの流れも、18歳以上の人と全く変わらないということです。

 少し古いですが次のグラフをみてください。これは、国保連が提供している「年齢階級別にみた利用者数の推移」を表したものですが、15歳以上18歳未満の重度訪問介護を利用する障害児の利用者数は、全体のわずか約0.3パーセント以下となっています。少し年齢層を上げて障害児ではなく18歳以上20歳未満の若年層世代の障害者の数をみても、全体のわずか1パーセントほどしかいません。2022年4月から、現行の20歳から18歳に成人年齢が引き下げられますが、現行法上では未成年障害者の重度訪問介護の利用者数は全体の約1.3パーセントしかいないことになります。事実上重度訪問介護を利用している障害児はないに等しいと言っても過言ではないでしょう。


 このグラフの数字は一体なにを意味しているのでしょうか。介護保険と比較して障害福祉サービスの利用が少ないこと、また少子高齢化の加速もあり、一見すると障害児の重度訪問介護の需要が少ないようにも見えてきます。しかし、私たちが依頼を受ける障害福祉サービスの中には、障害児を対象とするサービスが数多く存在し、重度訪問介護制度の利用を望まれている人たちが一定数います。この事実を前提とすれば、このグラフの数字は障害児の需要に現在の制度が応えられていないだけであって、実際はこの数字を大きく上回る重度訪問介護の需要が見込まれると考える方が自然です。

3.障害児とその家族

 実際、重度訪問介護を必要とする障害児は全国に数多くおり、その中には24時間介護を必要とする障害児も少なくありません。とはいえ、先に述べたとおり障害児は原則、重度訪問介護を利用することができません。このため、障害児の在宅支援は居宅介護での支援が中心となっています。しかし、そもそも居宅介護は比較的障害支援区分の低い人(区分1~3)で、概ね2~3時間程度の身体、家事援助が中心の支援です。障害支援区分の高い人(区分4~6)で、二肢麻痺以上、「歩行」「移乗」「排尿」「排便」のいずれも支援が必要と判断される障害児の場合、居宅介護では十分に必要なケアを受けることができません。このためヘルパーが支援に入らない時間帯は、結局ご家族が睡眠時間を削ってでも対応せざるを得ないのが実情といえます。

 現行制度による障害児の支援は、その大部分がご家族に依存しており、介護は家族が協力してあたりまえ、といった古い考え方が見え隠れしています。こうした考え方は、ときとして障害児のご家族を追い込み、介護そのものを満足のいかないものにしてしまいます。必要な支援が受けられなければ困るのは障害児で、本来なら維持できたはずの残存機能を失い、場合によっては生命の危険にもつながり兼ねません。また、障害児のご家族が24時間365日、介護に専念できる方がごく稀で、なかにはそうした過酷な現状から、部分的に必要な介護を放棄してしまう方も少なくありません。しかしそれは、そのような状況に追い込んでしまっている制度そのものにも問題があるともいえます。
 
   本来の重度訪問介護は、重度の障害を持った人たちが平等に利用できる制度でなければならないずです。それならばこの制度が、一刻も早く重度障害児にも幅広く浸透し、すべての障害者を持った人たちが等しく、適切な障害福祉サービスを受けられる社会の実現を目指していかなければならないはずです。





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