地域生活を支える ~相模原障がい者殺傷事件の判決と優生思想という社会に思う事~

渡邉由美子



相模原障がい者殺傷事件を起こした植松聖被告の死刑判決が3月16日に言い渡され、控訴しない方針を打ち出しています。死刑制度の是非は別議論として考えたいところです。個人的意見を書くならば、死刑執行により本人が全ての罪から無罪放免化されることにはこの事件に限らず大いに違和感を覚えるのです。死刑制度についてはまた別の機会に書きたいと思います。

極刑に処されることとなり、植松被告が行った戦後類を見ない殺傷事件が終息することには大変大きな疑問と違和感が残ると言わざるを得ません。

そこで暮らしていた障害を持つ人は、人生に目標もあったし、家族や地域の人たちに支えられて生きていたのですから、その普通の生活を一瞬にして奪う権利は誰にも無い訳です。

入所施設の中の生活は、人材不足や処遇の問題はあるにしても、死んだ方が良かった命というものは、当然あるわけはなく、生きていく中で改善されていくべき問題なのです。

事件が起きて、被害者の家族や関係者の心情に配慮して、実名を明かさずに審議が進められ、判決を迎えることなど異例の対応が沢山ありました。その一つひとつの課題を、これから障がい者運動によって改善していきたいと思います。

被告は、事件から数年経った現在でも障がい者を大量に殺傷したことに対して自分は良い事をしたのだという理論を貫き通しています。「世の中の役に立たないとされる障がい者を世の為人の為に殺した」という一貫した姿勢を崩さない主張を繰り返し行っています。

そんな中で私に出来ることを模索した結果、あの事件が起こって以来、仲間と共に世にはびこる優生思想を良しとする思想に異論を提し、穏やかに闘い続けています。具体的な行動としては街頭に立ち、暑い日も寒い日も時間がある時にはチラシを撒いたり障がい者が作った歌を一緒に歌ったりしながら、現代社会と重度な障がいを持つ人たちがやんわりと関わり続けることでつながりを強化したいと考え、深い理解を求めて努力を続けています。

なかなか賛同は得られにくい地道な活動です。

植松聖被告は一時期教師を目指していたことがあるそうです。その夢が叶わなかったために道を誤ったのだと言う声もあります。
やまゆり園で働き始めた頃には評判もさほど悪くなかったという報道も耳にするなど、まだこの事件そのものの本質の解明がされていないことが多く、拙速に論ずることが難しい実態があると思います。

どんな動機や理由があっても尊い命を奪った現実は許せません。

しかし死刑判決が下り、刑が確定すれば世間の中で事件は風化します。そして障がい者と普段からあまり接点がない、もしくはよいイメージをあまり抱けない多くの国民にとっては、月日と共に大量殺人という狂気な事件であっても、忘れられてしまうことは目に見えた現実です。

私のように自分自身が障がいを持っていてこの事件に関心を寄せていても、事実は伝わりにくく、情報が少ないので全て闇に葬られる形となっています。その事実に悔しさを禁じ得ません。

私は20年前から地域生活を営んでいますが、多くの重度障がい者は年齢に関係なく、安全で安心で生活の場という神話のもと入所施設を選ばざるを得ない状況です。地域生活の手段さえ知らされずに一生を終える障がい当事者の人たちやご家族のこうした孤立を打開したいです。

また職員についても「自分たちだけで障がい者の生命を守っていくしかない」と少ない人員・限られた予算の中で追い詰められてしまえば、やりがいや余裕を無くし今回のような事件に繋がっていくかもしれません(ある意味、そう考えれば被告も、劣悪な処遇環境の中で追い詰められていった一人と言えるのでしょうか)。

どんなに重度の重複障がい者にも地域生活が実現できるよう共に考え、作り出していきたいと思う今日この頃です。

個性豊かな障がい者に対応できる支援者、理解者を増やし、重度訪問介護のヘルパー制度をフルに活用して生きる生活がもっとメジャーな訪問介護の形となり、地域生活が選択肢の一つに容易に取り入れられる時が来れば、地域共生が実現するのではないでしょうか。

今は訪問介護=介護保険という考え方が関係者の中でさえ主流です。そこから変革していかなければならないのです。地域共生が実現できれば、殺傷事件は二度とない健全な社会が形成されるのです。

勿論、事件を起こしたことを擁護する余地はありません。しかし植松被告ひとりを悪人として死刑という極刑を施行してこの事件を終了することもできないのです。

生きて、一生罪を償い、心から反省を求めたいのです。

事件が起こるまでの経緯を解明し、被告を擁護する人たちの優生思想を変えていく働きかけを続けていくほかありません。単なる死刑執行ではない、この事件への向き合い方について社会全体で議論し、深め、最終的には皆が共に生きる社会の実現を求めていきたいです。



渡邉由美子
1968年6月13日生まれ 51歳
千葉県習志野市出身
2000年より東京都台東区在住
重度訪問介護のヘルパーをフル活用して地域での一人暮らし19年目を迎える。
現在は、様々な地域で暮らすための自立生活運動と並行して、ユースタイルカレッジでの実技演習を担当している。

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